身体と行動
気候変動への
適応を学ぶ

環境に適応進化した
生物の身体と行動に例える

気候変動への適応は、文明社会を持続的に発展させていくために、全人類が取り組むべき大きなイシューです。

気候変動への対策は、緩和策と適応策に分けられることが国際的なコンセンサスとなっています。
このうち地球温暖化の防止を目的とした緩和策は、温室効果ガスの排出抑制や、森林等の吸収作用の
保全や強化など、そのアプローチは非常にシンプルです。
一方で気候変動の影響に対処する適応策は、理解が難しいものになりがちです。それは、適応策が防
災、資源管理、農業、貧困、食料、安全保障などさまざまな課題が複雑に絡み合うためアプローチは
多岐にわたり、全体像を捉えるのが難しいからです。

そこでADAPTMENTでは、気候変動適応策を誰もが理解できるものとして構造化するために、生物の
身体構造と行動原理を参照しました。なぜなら生物の身体は環境の変化に適応するように進化したも
のであり、我々にとって最も身近なレファレンスでもあるからです。

陸域 海洋 河川 BODY ADAPTATION 身体の適応 BEHAVIOR ADAPTATION 行動の適応 環境

適応進化の構造

身体の適応進化

都市や生活を守る建築や土木など、ハードウェアとしての都市環境の適応進化を考えてみましょう。
ADAPTMENTの身体の適応進化のパートでは、生物の身体構造を参考に、環境に適応する柔軟な都市の構造を考えます。
神経のように外界からの危険を理解する知覚性、脂肪のように緩衝地帯としてダメージを未然に防ぐ冗長性、筋肉のようにしなやかな弾力で変化を跳ね返す弾力性、血管のように体内で資源を循環させる循環性、骨のように衝撃から身を守る頑強性、そして身体についた傷を癒やす回復性などによって、私たちはダメージを防ぐ身体を獲得しています。
こうした生物の身体が持つ性質と比べてみると、これまでの都市開発はまるで蟹やカブトムシの甲羅のように、回復を前提としない構造を人工的に作り出してきたことに気づきます。しかしこうした頑強な構造は、守る力を備える一方で一度壊れると回復しづらい性質を持っています。激しい気候変動に適応するには、より柔らかく、しなやかな回復性を備えた都市の開発が求められるでしょう。
ADAPTMENTでは、こうした柔軟な都市の構造を前提とし、頑強なだけでなく柔軟な都市開発を考えます。

身体の構造 災害適応の構造 BODY ADAPTATION 身体の適応

01

知覚性 PERCEPTIVITY

神経

センサーで危険を察知し、避ける力

異変が発生したときに、危険振動をいち早く察知してアラートを出すことが、生存戦略のための安全装置として生物にも取り入れられている。例えば、「痛み」もその一例だ。地震アラートや気象衛星などを通じて危険をいち早く察知することができれば、災害を避けることができるだろう。


02

回復性 RECOVERABILITY

細胞

自己を治癒する力

生物の組織は壊れると自己治癒力を発揮するが、多くの人工物は壊れたまま自然に治ることはない。しかし石灰を配合した古代ローマのコンクリートに自己治癒力があることが証明されたり、日本家屋のように交換可能な共通のモジュールを持つことで、建築や土木においても、ダメージからの回復力を高めることができるだろう。





06

頑強性 ROBUSTNESS

ダメージから身を守る丈夫さの力

皮膚が傷ついても骨は折れていないことがあるように、全体構造を頑強に設計することも生存戦略においては重要だ。一階だけがコンクリート構造となっている住宅を建てることが護岸整備の代わりになるなど、既存の頑強な構造を最大限に活かすことで気候変動によるリスクに備えることができる。

適応進化の構造

行動の適応進化

市民の行動や文化における防災やコミュニティなど、ソフトウェアとしての都市環境の適応進化を考えてみましょう。
ADAPTMENTの行動の適応進化のパートでは、生物の適応的な行動から、環境に適応する柔軟な文化を築く方法を学びます。自分たちに起こっている状態を理解する観察性、かつてその場所で起きた災害の情報を伝承する記憶性、将来の危機を想定して準備する予測性、危険が迫ったら場所を移す移動性、またコミュニティで助け合う協力性です。激しい気候変動に適応するためには、ハードウェアに偏らずに市民の関係性からレジリエンスを高める必要があります。ADAPTMENTでは、より柔軟でレジリエントな関係性に満ちた地域を目指して、こうした適応行動のパターンに学びつつ、市民の防災行動計画の開発を考えます。

ハブ BEHAVIOR ADAPTATION 行動の適応

01

観察性 OBSERVABILITY

状況を観察しアセスメントする力

現在の状態が、もしもの状況に適応できるかを知るには、状況を観察する力が問われる。危機的状態に耐えられないことがわかっていれば、その準備を加速させる必要があるだろう。こうした現在の開発をアセスメントし正しく理解する力は、開発における適応策の前提となるものだ。


02

記憶性 MEMORABILITY

かつての危機から学び、記憶を伝承する力

自然災害は数年から数百年の周期で繰り返すことが多い。そのため、かつての経験を後世に伝える記憶の伝承は、社会全体の安全性を高める上で大変重要なものとなる。記憶を伝承し、それを現在の人が学習するための方法を用意することが、未来の災害を未然に防ぐことにつながるのだ。


03

予測性 PREDICTABILITY

危機が起きたときの状態を予見する力

もしも危機的な出来事が起きたら、いったい私たちはどうなってしまうのか。私たちにはそれを実際に経験する前に、その状態を予測して準備する能力が備わっている。いまや災害は様々な形でシミュレーション可能になっている。テクノロジーの力も借りながら、未来の予測精度を高めることが安全につながる。


04

移動性 MOBILITY

危機的な状況から逃げ、必要なものを手元に移動させる力

命の危険が迫るとき、私たちは本能的にそこから逃げようとする。この逃げる力を養うことは、気候変動への適応につながる。生活の移動だけでなく、農場や産業の移動も重要だ。来たるべき気候を予測し、将来の気候に合った作物や技術を手元に移動させて安定性を保つ戦略を考える。



06

伝達性 COMMUNICABILITY

危機の到来を周囲に広く伝える力

生物は情報伝達によって自分自身や群れを守っている。遠吠えで仲間に敵の接近を伝えたり、視覚情報でメスの気を引きつけたりと手段は様々だ。さらに人の言語能力は伝達性を進化させた。危険を知らせる方法や、適応に必要な情報発信は、適切なメディアの選択や情報の魅力化のためのデザインなど、様々な技術で高められる。