ADAPTATION MEASURE 009

水と土砂の恵みを享受する伝統的な制御技術と仕組み

BEFORE

従来のグレーインフラ整備は、自然と暮らしの関わりを希薄化し、生態系サービスの低下を招いていた。

AFTER

豊かな地域文化と生態系を形づくるコミュニティを基本とした水利用と防災・減災の仕組みによって自然環境が維持され、生態系が育まれる。

日本各地の地域コミュニティには、多様な水利用形態と水や土砂の制御を行う伝統的な仕組みがある。谷水や湧水は川や水路を通して流れるネットワークとなり、衣食住の中で使われるとともに、稲作や漁業など生業と深く結びついている。
川の水は多すぎても少なすぎても人々の暮らしに影響を与えるため、洪水や土石流が発生した非常時だけでなく、水や土砂の移動に対応した日常での制御技術、仕組みがある。滋賀県比良山麓で江戸時代に始まったとされる「シマツ」「カワトと捨て川」は扇端部の集落が豊かな水を利用し、周辺の森林などとの関係も考慮しながら防災・減災を行なう事例である。こうした仕組みは湖岸の砂浜を維持し、豊かな生態系を育むことにも貢献してきた。

CASE.01

シマツ:山地から流れ出た砂が下流部に堆積しないよう砂を溜める沈砂池

16世紀

シマツは、山地からの水を利用する際にそこに含まれる砂を除くための工夫だ。溜まった砂を河川本流に戻すのに適した立地となる本流からの取水口付近、本流に近い山間の谷筋、集落付近などに設けられ、放流用水門を開放すると、掘り割りを経て本流へ水と砂が流れ出る構造になっている。形状は直線的な多角形や楕円形となり、水の勢いが強い用水路ではシマツの導入部に石が積まれ、水をぶつけて勢いを削ぐなどの工夫も見られる。
シマツは水を池に一旦入れることで流速を弱めて砂を底に溜めるもので、用水路と合わせて溜まった砂を除去するなどのコミュニティによる管理作業を伴う。放流用の水門を操作し、水の流れを利用して砂を河川に放出する手法もある。稲作などの利水用に取水した水を一時的に溜めて、下流側の用水路や水田などに必要以上の土砂が流れ込まないようにする役割がある。

滋賀県大物のシマツ(深町撮影)

 

洪水が予想される際は、シマツの手前で水門を閉じて水や砂が流れこまないよう制御できる。本流側の非常時に押し寄せる土砂の抑止方法(石堤など)や、周辺の砂防林としての森林の保護や管理と組み合わせた水や土砂の制御方法となっている。

滋賀県南比良のシマツ(深町撮影)

CASE.02

カワトと捨て川:堰止めて日常に水を使い、増水時には水を逃す用水ネットワーク

16世紀

カワトは、地域全体の用水路ネットワークの中で、集落内を流れる用水路に対して各戸単位で板などで部分的に水位を高くしたり、庭先などに水を引き込んで溜める小規模な装置、空間である。生活用水、農業用水などの一部として自治会、農業組織などによる共同管理が行われている。

谷水や湧水は衣食住や生業を支える自然の恵みであるが、水量が多すぎると自然災害につながる。そのため、水量が多くなった時などに上流の用水路の様子を見に行くなど、カワトの様子から自然災害に対処するタイミングを判断する目安にしてきた。上流側にあるカワトでは、増水した分を隣接する畑の方に流すなどして、水路全体の水の流れを制御する工夫もある。

水を逃して管理するもう1つの方法として、集落内を流れない用水路の一部のネットワークを「捨て川」に設定している。増水時には自治会の責任者などが谷水を「捨て川」に流して本流に戻すなど、水の流れや量を制御している。日常では洗濯など、水が汚れる作業を「捨て川」で行うようにしてきた。言い伝えや信仰の場によって清い水を享受する工夫があり、用水路の石組みがくずれたりすると、共同で修繕を行っている。

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