BEFORE
多くの建材は持続的でない方法で調達されている。建築物が完成する前から大量に二酸化炭素が排出されており、森林破壊、環境汚染、流域の破壊などが引き起こされている。建築物の使用時も、温度調節などを化石燃料エネルギーに依存することが環境にダメージを与え、適応を妨げている。
AFTER
持続可能な方法で調達されたゼロカーボン材料を使用することで、森林をはじめとする自然環境を再生できる。また、自然の冷暖房・換気機能を取り入れる建築デザインや、高度なエンジニアリング、センサーによる気候制御システムを組み合わせることで、エネルギーの消費量を抑制できる。
気候変動への適応を考えるとき、建築は強力なツールになり得る。なぜなら建築は、膨大な量の資源とエネルギーを消費する産業だからだ。建築に費やされる資源が、炭素を吸収する森林などの環境に配慮しない手段で供給され続けると環境問題は悪化し、適応はより困難になるだろう。現在の建築資材の多くは、加工・使用時に多くのCO2を排出している。こうした状況の中、ゼロカーボンの建築資材の活用を促進することは良い効果をもたらすはずだ。
建築物が環境に大きな影響を与えるのは建設時だけに限らない。建設後においても、エネルギー消費をはじめ、水の使用、廃棄物の排出、都市のヒートアイランド現象など、建築が周辺環境に与える影響は大きい。こうした問題に対して、気候や環境への悪影響を最小限に抑えながら、快適さや安全性を実現する多くのソリューションが古くから開発されてきた。
これからの建設計画では、建材の調達源をはじめとする「川上」の問題と、建築物の使用中や耐用年数を迎えた後の環境への影響を含む「川下」の問題にそれぞれ取り組むことが重要となる。
このように持続可能な循環性を持ち、環境を破壊しない建築のあり方を考える上で、江戸時代の日本のような伝統的な社会は多くの示唆に富んでいる。
CASE.01
森林資源の循環・再利用を促進するマスティンバー建材
1990年
ここ数十年の間に考案された木質集成材である「マス・ティンバー」建材は、強度、品質、用途の面で大幅な進歩を遂げた。例えば、CLT(Cross Laminated Timber)は、1990年代半ばにオーストリアで発明され、大型建築物の建設に大きな性能を発揮できる可能性がある。現在世界各地で、最大で18階建ての建築物に、CLTを用いた構造が採用されている。CLTは通常、厚さ60~320mmの木材を何層にも重ねて接着したパネルで構成される。マス・ティンバーの成功の鍵は、特にモジュラー・プレハブ構造における持続可能性、迅速な建築プロセス、活用シーンの多様さにある。木材は炭素を貯蔵するため、気候への悪影響を最小限に抑えられることも同様に重要だ。また、建築部材は簡単に解体して別の用途に再利用できるため、新しい材料を調達して使用する際に生じる気候への影響を最小限に抑えることができる。
マス・ティンバーは、炭素集約型から低炭素型の建築への移行を可能にする基盤となる。再生林業技術で育った木材資源の利用を促進することは、環境と経済のポジティブな相互作用を強化できる。世界中の多くの地域で、インフラや住宅の緊急ニーズを満たしながら、持続可能な経済活動の新たな基盤を提供できるのだ。
CASE.02
再利用によって環境負荷を最小限に抑える日本の伝統的な建築モデル
17世紀
日本の伝統的な建築物はほとんどが木造である。釘や接着剤を用いない工法が主流だったため、修理や再利用、移動のための解体などを容易に行うことができる。部屋や建材などの寸法はモジュール化されているため、個々の建材を他の場所で再利用する際にも最小限の加工や組み替えで済む。古い建材を再利用することは、日本建築の美意識の一つとされているのだ。
工業化以前の江戸時代では、森林資源の保護と再生が重要視されていたため、木材は大切に使われ、無駄を出さないように工夫されていた。大きな木の梁や柱は需要が多く、大都市にはこうした建築用古材を専門に扱う材木屋があった。床板は簡単にリフォームして再利用でき、「障子」や「襖」と呼ばれる戸や窓は、寸法が規格化されているため、容易に別の建物に使用できた。草や藁を編んで作った畳も同様だ。屋根瓦は再利用が容易であり、銅製の樋や鉄製蝶番などの金物類は、金属鉱石の産出量が限られていることや加工に大量の薪を必要としたため、特に重宝された。日本の伝統的な建築物には、使い道が1回限りのものはほとんどなく、たとえ他に用途がない土壁にしても、数年間で土に還すことができたのである。木や竹、紙、縄などの生物由来の材料も燃料として利用したり、分解して自然や農業のサイクルに戻すことができる。
近年、日本が伝統的に実践してきた「再利用のための建築」を推進する「Buildings as Material Banks(BAMB)」と呼ばれる動きが出てきている。これは、建物を建てるときに使用した材料を保存・保護し、建物が解体されたときに再び使用できるようにする考え方である。日本での伝統的な建築を見れば、材料の使用を最小限に抑え、再利用を前提とする美しい建築デザインが実現可能であることは明らかだ。これが社会全体の規範となれば、建築産業そのものが環境に与える悪影響を大幅に削減することができるはずだ。
CASE.03
高温多湿の環境に適応する日本の伝統的な住宅設計
16世紀
西洋文化の影響を受ける以前の社会で発展したデザインには、その社会に「最適化された技術」が使われてきた。環境や資源、社会の優先順位に合わせて、技術的な解決策が可能な限りシンプルに保たれていたのだ。
産業革命以前の日本では、あらゆるデザインが高度に発達し、かつ “最適”であった。例えば、夏が高温多湿である日本では、建築物に自然冷房の技術を取り入れることが重要な課題であった。そのため、住宅などの建物は全体に日陰を作り、風を通すために樹木を利用した配置になっている。庇(ひさし)が深く、外壁に日陰ができるため、建物内の温度は数度下がる。また、床を高くして下に冷たい空気の層をつくることで室内を冷やし、引き戸や窓パネルを採用することで採光と通風を確保した。
こうしたアプローチに欠かせないのが庭園だが、都市部の密集した住宅地では十分なスペースを確保することが困難だった。そのため、家屋の裏側に小さな庭を設け、近隣の建物や木々で陰を作るか、家屋の中心部に庭を設けていた。現在も多く残っている「坪庭」と言われるこの庭は、涼しい緑地であり、重要な環境調整機能を担っている。わずかな風を呼び込むことで、家の中に自然な冷気を供給し続けることができるのだ。また、2階の居住空間とも連動しているため、引き戸やシャッターを上手に使えば2層式の換気システムとなる。
このように高密度化した都市に対応する自然の空調システムの事例は数万件に及んでおり、その真価はすでに明らかになっている。
これらは高温多湿の地域で活用できるデザインだが、地球上のあらゆる地域には何世紀にもわたって開発されてきた自然のデザインがある。つまり、温帯、熱帯、砂漠、ツンドラなど、どのような環境であっても、その土地固有の伝統的な適応策から学べることがあるのだ。
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