BEFORE
従来の都市における排水や河川堤防には、無機質なコンクリートのものが目立った。こうしたいわゆる「グレーインフラ」は、効果こそ高いものの、しばしば費用がかさみ、設置された目的以上の便益をもたらさなかった。
AFTER
グレーインフラに代わる、生態系を活用したアプローチ(自然を活用した解決策やグリーンインフラと呼ばれる)では、都市インフラの機能を維持しつつ、都市の緑化に貢献し、人々の憩いの場として機能するなど、多様な便益をもたらす。
生態系が持つ防波効果を生かし、豪雨時の河川氾濫による洪水などの災害リスクを軽減する取り組みは、「自然に基づく解決策(Nature-based Solution)」や「グリーンインフラ」といった概念として近年注目を集めている。特に都市においては、災害に対する強靭性を高めるだけではなく、グリーンスペースを確保し、人と自然が触れ合える場所づくりを行うために有効な手段である。都市化が進むアジア諸国等では、都市計画にこうしたグリーンインフラの概念を積極的に取り入れ、公園の整備などを行っている。
CASE.01
自然の力を活用した多機能型の都市型河川公園
水資源の確保に注力するシンガポールでは、雨水の循環管理を促進するべく2006年に「ABC水のデザイン・ガイドライン(略称 ABC-WDG)」を策定し、全国的にグリーンインフラの整備を進めている。そのパイロット事業として実施されたのが、ビシャン・パークの再整備である。
このプロジェクトは、コンクリートで整備されていた排水用の河川を自然型の河川に再生し、ビシャン・パークを多機能型の都市型河川公園として生まれ変わらせるというものだった。新たに整備された自然型の河川は、川幅の拡張によって許容流水量を増やし、非常時の氾濫原は40%増加した。さらに、広大な浄化ビオトープを新しく設置し、園内の川や池から取水された水が浄化されて再び川へ戻るといった水の循環を公園敷地内で実現している。
本プロジェクトの大きな特徴として、こうした治水効果のみならず、この公園が人々の憩いの場となり、水や自然と触れ合える場としても多様な機能を発揮していることが挙げられる。自然による多様な便益を引き出す「自然を活用した解決策」の好例だといえる。
Sources:
機関誌『水の文化』60号 水の守人(ミツカン 水の文化センター)
Sources:
Bishan-Ang Mo Kio Park
CASE.02
水管理を都市開発や建築環境と統合する水配慮型の都市設計
2018年
ベトナム最大の都市であるホーチミン市、副都心であるヴィンイェン市とフエ市では、アジア開発銀行の都市気候変動レジリエンス信託基金からの資金支援を受け、水管理を都市開発や建築環境と統合する水配慮型都市設計(WSUD)の導入が進んでいる。
WSUD のアプローチは、水質の改善、土壌浸食と沈殿の防止、生態系による二酸化炭素の吸収、生物多様性の保全など、様々なメリットがあると考えられている。ホーチミン市の運河沿いにあるゴーバップ文化公園は、豪雨時の洪水を抑える氾濫原を備え、かつ地域にとって魅力的な河川公園となるべく設計された。ホーチミンのような人口密度の高い大都市圏には珍しく広大な土地を持つこの公園では、スペースを十分に生かし切れていないという課題もあった。敷地内を流れる運河を堤防で覆えば堤防の浸食防止等には役立つが、この公園では自然の地形や防災効果を生かした設計にすることで、人と自然の共生のための空間を作り出している。
こちらの事例導入に関して、
ぜひお問い合わせをお待ちしております